はじめに
ご訪問ありがとうございます。ここは私・椎名 葵が書いたオリジナル小説と詩、Sound Horizon・VOCALOID楽曲の二次創作小説を掲載しているブログです。
小説のジャンルですがカテゴリによって分けてあります。冒頭に特になにもなく長さ+小説とあるものはオリジナル小説になります。SHとあるものは幻想楽団Sound Horizon、ボカロ曲二次創作小説とあるものはVOCALOIDにて作成された既存の曲を小説化したものです。
これら二次創作作品は私の独自解釈で小説化したものなので他の方と相違があるかと思います。また、一部の作品(主にSH二次創作)に残酷描写のように見える部分などがある場合がありますので、苦手な方はご注意くださいませ。
当ブログはブログトップに限りリンクフリーです。記事ごとのリンクはご遠慮くださいませ。リンクの際にお手数ですがご連絡をいただけるととても嬉しいです。その際、折り返しリンクをはらせていただきますね。相互リンク大歓迎です。
当ブログ内の文章は椎名葵に、画像・ブログテンプレートは作成者に著作権があります。一部私個人のMixi日記に掲載している作品もありますが、ブログ内容の無断転載・誹謗中傷・荒らしは厳禁です。リンク報告・感想なども含めなにかあればメールフォームへお願いいたします。ものすごく遅くなるとは思いますが、忘れた頃でもよろしければお返事はできるだけする予定です。


拙いものですが、閲覧者の方が少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
最終更新10/07/15 自作詩更新(10/08/28 カテゴリ;お知らせ に記事追加)
小説のジャンルですがカテゴリによって分けてあります。冒頭に特になにもなく長さ+小説とあるものはオリジナル小説になります。SHとあるものは幻想楽団Sound Horizon、ボカロ曲二次創作小説とあるものはVOCALOIDにて作成された既存の曲を小説化したものです。
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最終更新10/07/15 自作詩更新(10/08/28 カテゴリ;お知らせ に記事追加)
2010年07月15日 19:42
ほらもう死んだほうがいいんだって 影で言われてるんだよ
そんなこともう随分前から知っていること 改めて言われなくたって
生き延びたあの時から 悟りきってる余計なお世話なんだよ
そうやって騙し騙し ココロもカラダも壊して直して
いつか幸せになりたいだなんて 夢見がちなことを思いながら
なあどうしてイノチってあるんだろ?
なあどうしてニンゲンっているんだろ?
わかんねえよ それでも自分はここにいる
単純な話 息して飯食ってトイレ行ってただそれだけ
恋をして 愛して すれ違って 別れて
その繰り返しの末に結ばれて それが人生なのか
わからなくなってる 怖い怖い怖い
ほらもう全部消えてしまえって こっそり思われてるんだよ
そんなこともう随分前から知っていること 改めて言われなくたって
逝けなかったあの時から 悟りきってるんだ今更なんだよ
そうやって騙し騙し カオもシグサも嘘ついて誤魔化して
いつか幸せになりたいだなんて 夢見がちなことを思いながら
なあどうしてイノチってあるんだろ?
なあどうしてニンゲンっているんだろ?
わかんねえよ それでも自分はここにいる
単純な話 息して飯食ってトイレ行ってただそれだけ
知り合って キスして 肌合わせて 傷つけ合って
その繰り返しの末に結ばれて それが人生なのか
わからなくなってる 怖い怖い怖い
それでも幸せになることを目指す やめられないヒトの業
ココニイルコト イキテイルコト
ココニイルコト イキシテルコト
高給取りにはわからない貧乏なりの幸せ
ただそれだけでいいのに どうしてこんなに悩むんだ?
あいつらはいとも簡単にアレを買えばいいとか使えばいいとか言うんだ
そういうもんじゃないだろう? 身の丈に合った生活それが一番だよ
恋をして 愛して すれ違って 別れて
知り合って キスして 肌合わせて 傷つけ合って
わからなくなって 不安になってる
それでも幸せになることを目指す やめられないヒトの業
たとえ大勢の人間の中で 単なる雑草でしかなくたって
怖がりながら不安になりながら それでも幸せならばなんの問題もありはしない
雑草幸福論
雑草幸福論(快)
そんなこともう随分前から知っていること 改めて言われなくたって
生き延びたあの時から 悟りきってる余計なお世話なんだよ
そうやって騙し騙し ココロもカラダも壊して直して
いつか幸せになりたいだなんて 夢見がちなことを思いながら
なあどうしてイノチってあるんだろ?
なあどうしてニンゲンっているんだろ?
わかんねえよ それでも自分はここにいる
単純な話 息して飯食ってトイレ行ってただそれだけ
恋をして 愛して すれ違って 別れて
その繰り返しの末に結ばれて それが人生なのか
わからなくなってる 怖い怖い怖い
ほらもう全部消えてしまえって こっそり思われてるんだよ
そんなこともう随分前から知っていること 改めて言われなくたって
逝けなかったあの時から 悟りきってるんだ今更なんだよ
そうやって騙し騙し カオもシグサも嘘ついて誤魔化して
いつか幸せになりたいだなんて 夢見がちなことを思いながら
なあどうしてイノチってあるんだろ?
なあどうしてニンゲンっているんだろ?
わかんねえよ それでも自分はここにいる
単純な話 息して飯食ってトイレ行ってただそれだけ
知り合って キスして 肌合わせて 傷つけ合って
その繰り返しの末に結ばれて それが人生なのか
わからなくなってる 怖い怖い怖い
それでも幸せになることを目指す やめられないヒトの業
ココニイルコト イキテイルコト
ココニイルコト イキシテルコト
高給取りにはわからない貧乏なりの幸せ
ただそれだけでいいのに どうしてこんなに悩むんだ?
あいつらはいとも簡単にアレを買えばいいとか使えばいいとか言うんだ
そういうもんじゃないだろう? 身の丈に合った生活それが一番だよ
恋をして 愛して すれ違って 別れて
知り合って キスして 肌合わせて 傷つけ合って
わからなくなって 不安になってる
それでも幸せになることを目指す やめられないヒトの業
たとえ大勢の人間の中で 単なる雑草でしかなくたって
怖がりながら不安になりながら それでも幸せならばなんの問題もありはしない
雑草幸福論
雑草幸福論(快)
2010年07月15日 00:48
第二回恋愛ファンタジーコンテストに参加させていただいたのですがその後複数の作品が無断転載されているそうで、私の作品も無断転載されておりました(発覚;10/02/10)。
投票について公平にするため作者名は伏せて開催されていましたし、コンテスト後まだこちらにも掲載していなかったのですが、コンテストHPにて掲載されている『重さと想いと枷と手錠』(http://contest.ohimesama.info/novel/52.html)は私の作品です。このことは私のMixiでもお知らせさせていただいております。
無断転載をしているところについてですが、10/04/07にようやくすべての削除を確認いたしました。
お知らせいただいた方には多大なる感謝を。このような行為がなくなりますように。
10/07/15 最終文章変更完了 椎名 葵 拝
(10/08/28 トップの『はじめに』より記事移動)
投票について公平にするため作者名は伏せて開催されていましたし、コンテスト後まだこちらにも掲載していなかったのですが、コンテストHPにて掲載されている『重さと想いと枷と手錠』(http://contest.ohimesama.info/novel/52.html)は私の作品です。このことは私のMixiでもお知らせさせていただいております。
無断転載をしているところについてですが、10/04/07にようやくすべての削除を確認いたしました。
お知らせいただいた方には多大なる感謝を。このような行為がなくなりますように。
10/07/15 最終文章変更完了 椎名 葵 拝
(10/08/28 トップの『はじめに』より記事移動)
2010年04月11日 09:45
飲み会の時、あの子はずっとつまらなそうだった。
ただ、タバコをふかしてすました顔で。
いつもより強い風が、木々を揺らしている音が騒がしいここにまで響いてくるけれど、そんなこと誰も気にしていなかった。彼女はどこか遠くを見ているようでもあり、どこも見ていないようだった。
僕の好きな年上の君は、いつもとどこか違って見えた。なにかあったのかなと思っても、そんなこと素直に話してくれるだなんて思っていない。
「……あれ、飲んでないの?」
「いやいやいや、ちゃんと飲みますって。せっかく先輩がタダ酒飲ませてくれるってんだから」
サークルの先輩がなにやらとんでもない額の万馬券を当てたとかで、僕ら後輩を含めた十人ちょっとはサークル活動もそこそこに大学の近くにある飲み屋になだれ込んでいた。僕は競馬とかわからないけど、今日は先輩に感謝しよう。
なので、しっかり酒を飲んでもいるしちゃんと食べてもいる。それでも声をかけられた時だけ楽しそうにする君が気になって仕方ないんだ。
僕が彼女のことを好きだってことは、とうの昔にばれてもいるし振られているんだってことも知られてる。本当にあの時は死んでしまいたくなるくらい苦しくて、サークル――いや、学校自体をやめてしまおうだなんて思ったこともあったけど。それでもなんとか時間が解決してくれた。
告白したのはもう半年も前のことだ。
あの時、僕は思い切りはぐらかされた。
彼氏だなんて今はいらないからごめんね、だなんて。
ほしくなるまでちょっと待ってて、だなんて。
そんなずるい言葉で。
年下だからやっぱりダメだったのかなあとか思ったけど……違ったって、後から知った。
君はただ誰かが自分からまた去っていくことが怖いんだろう?
聞いたんだ。
僕が入学する前、一年生の時に大失恋したんだって。あれから三年の今に至るまで一度も彼氏を作ったことがないって。
――浮気されたんだって。
――もうこれからひとりで生きてく! って言ってたよ。
振られた後、なんとか学校に行けるようになってから、何人かのサークルの女の子からそんな話を聞いた。
でも知ってるんだ。あの子のそれは全部強がりだって。
……年上をあの子、だなんて思ってたらおかしいのかもね。でも、そう思わせるようななにかが僕にとってはあるんだ。この消えない気持ちだって引きずっているだけなのかもしれない。男はほら、女よりも引きずるものだって今日思い切り出来上がっている万馬券の先輩に言われたし。あの時は本当にお世話になりました、先輩。
いやいやそれはどうでもいい。ずっとあんな顔していることが目について離れない。僕は今すぐにでも君の隣に行って、少しでもその硬い表情を和らげてあげたいと思う。さっきから席を移動しようとしているんだけど、上手くいかない自分が嫌になるよ。
お酒で火照った頬に、強い風が心地いい。
私はしっかり酔っていることは自覚していたけど、心のどこかはずっと冷めたままだった。せっかくおごってもらえるっていうのに、なぜかあれからずっと大勢で騒いだりしていてもどこかが冷めてしまっている。
もう二年も経ったのに傷はなかなか消えないみたいだ。きっかけはうん、しっかり自覚しているよ。別の学校の人と付き合いだして、忙しくてなかなか会えない日が付き合って三ヶ月くらいから始まって。思っていたよりもレポートや課題が多いことを舐めていた私も悪いんだけど。でも、だからと言って浮気していいだなんて言った覚えはひと言もなかった。
とてもわかりやすい失恋。たまたまぽっかり時間が空いて、驚かせちゃおうと直接自宅に行ったら……ああいやだ、思い出したくないけど本当によくある話。つまらない二時間ドラマにでもありそうな展開。最後に覚えているのは、その場で手に持ってたお土産のケーキの箱を投げつけたせいで真っ白になったあの人の顔。よくあんな上手いことぶつかったなあなんて思ったりする。テレビのパイ投げみたいなバカな顔。
あれからどんな相手でも断ってきた。すっかりトラウマになってたんだと思う。色んな人が励ましてくれたし、色んな人が気を紛らわせてくれたし、自分でも立ち直ったつもりだったけど、それでも。当然よね、ドアを開けたらふたりともこれからいたすところでしたーなんてもの見てしまったら……。あの日からそういう、映画のえっちなシーンですら気持ち悪くなってしまってたくらいだもの。さすがに今は少しマシになったけど。
だから、半年前に同じサークルの後輩に告白された時だってすげなくしてしまった。
うん、仲はよかったと思うし、可愛がってたと自分でも思う。
あの子が恋愛対象にならない……ってわけじゃない。
むしろ、嬉しかった。
だからとてもずるいことを言って笑って後ろを向いて小走りに。用事があるからとか嘘ついて。
すごーく傷つけたってわかっててもなにもできなかった。応えてあげたくても怖くて。
意識だけしていた。目では追わずに気持ちだけで追っていたようなもの。
今日の飲み会にももちろんあの子はきていた。でも、全然話した覚えがないや。私はぼーっとタバコをふかしながら軽く飲んだり食べたりしていただけで。こういう風の強い日はあのことを思い出すなだなんて感傷に浸って。そう、あの日も、とても風が強かった。まるですべてをなぎ倒していってしまうくらいに。あの時なぎ倒されたのは私の心だったけど。
「先輩、次の店行きます? まだおごってくれるみたいなんですけどっ」
「あー……私はいいや、ちょっと酔っ払ってるみたいだし」
「じゃ、帰り組と一緒ですね。夜ですから気をつけてくださいよ、タクシー呼びます?」
顔を真っ赤にしている女の子がじゃれつくように言ってくる。
こういう接し方をしてくる後輩は多い。どうも姐御肌というか、そういう風に見られてるのかもしれない。サークル内でタバコを吸う女が、私ともうひとりくらいしかいないせいかもしれない。そのもうひとりはもちろん友達でよく遊んだりもするけど、サークル活動に熱心ではないからあまり顔を出さなかったし。
「ううん。いい風だもの、少し当たって酔い覚ましてから自分で拾うから大丈夫」
「他に帰る人いるー?」
私の声を聞いているのかいないのか、そんなかんじ。
酒の席なんてこんなものだからいいか。
本当に、強い風。酔いを覚ますにはもってこい。
終電はまだあるし(だからなんでタクシー呼ぶのかなと思ったんだけど、なにしろあの子もすっかり酔ってたからいいかとスルーした)駅までゆっくり歩いて行こう。
他に帰る人、いるかなと思ってたけど……あ。
――気まずい空気にならないといい、な。
本当は僕もみんなと一緒に行こうかなと思ってたんだ。
でもあの子が帰るのなら、意味なんてないじゃないか。女々しいかもしれないけど思いっきりまだ僕は彼女のことが好きだし、ストーカーだとかそんなような物騒なことにならないような自然な形で側にいたいなと思うし。だからこそ、サークルを辞めなかったんだ。
「先輩、駅まで歩くんですか?」
次の店に行くというみんなの声を後ろに聞きながら、僕は前を歩き出したあの子に声をかける。さすがに名前や苗字で呼ぶようなことはない。あの子、だなんて親しげに考えたりするのは心の中でだけ。いつか、口に出せたらいいなだなんていまだに思っているんだけど。
「……うん。ちょっとどこか寄り道するかもしれないけど」
「ご一緒したら、迷惑ですか?」
声にしてからやばっ、と思った。まだ好きなことなんてきっと君は知らないよね。男がここまで引きずるってこともバカにされちゃうかもしれない。
でもそれは杞憂だったようで。
「別に、いいよ。もしかしたらどこかの公園かもしれないけど」
「その時はコーヒーおごりますよ、缶でよければ」
ずっとつまらなさそうにしていた君が、ほんの少しだけ笑ったような気がした。
なにも言わずに歩き出す。本当に寄り道するのかもしれない。駅へ向かう大通りを横道にそれた。僕はこの辺りにそんなに詳しくないから、ついていくだけだ。
前を歩く彼女が、長い髪をかき上げた時にちらりと見えたうなじに少し、どきっとした。ほんの少しだけ顔が赤い気がする。酒に強いという話は聞いたことないし、それなりに飲んでいたから酔っているのかもしれない。もちろん僕もそれなりに酔いを感じているから、きっと顔は赤いだろう。
そのままどんどん駅から離れていって、小さな児童公園に着いた。子どもが遊ぶために作られたんだろう小さな丘の向こうにコンビニの淡い明かりがかすかに見えた。
「先輩はこの辺り、よく知ってるんですか?」
「まあ、地元だからね。ええっと……」
「進学のためにこっちでひとり暮らし、始めました。色々と毎日大変です」
苦笑しながら言う。実際問題大変だったし。
「あ、タバコ吸うっけ? ライター落としちゃった。あっちで買ってくるのも面倒だし持ってない?」
……僕はまだ、タバコを吸ったことがない。
でも、なぜかライターはいつもポケットに入れていた。
なぜかって?
「持ってます。お点けしますよ」
こうやって、先輩のタバコに火をつける日が来るかもだなんて思ってたからだ。
振られてからも持ち歩いていたし、バカだし情けないなあってわかってるよ……。
「んー……」
強い風のせいで、なかなかつかない。僕の点け方が下手なのかもしれないけど。
ちょっと貸してと言われるままに手渡すと、今度は一発で火が点いた。
……うわあ、僕、格好悪。
それを誤魔化すように、缶コーヒー買ってきますねと僕はその場を離れた。
気まずいかんじではないけど、なんだかやりにくいな……と思っていた。嫌なかんじではないんだけど、私は罪悪感が少しあるみたいで。
なので、あんまり話もしないでここまで歩いてきた。思っていたよりも酔っていたみたいで、まだ顔が熱い。ここから駅までは五分十分程度なので、ちゃんと時計を見ていれば終電云々は関係ないし。歩いても帰ることはできるけど。どうせ私はひと駅先なだけだし。
火の点いたタバコをふかしながら空を見上げる。本当に風の強い夜。雲の切れ間にちらちら見える夜空を星が流れていく。一緒に帰ることになり、なしくずしにここまで一緒に来ているあの子は今、コンビニに買い物しに行っている。そういえばあの子タバコ吸う子だったっけ?
だから、私はひとりだ。ひとりでただ、風になびく髪を少し鬱陶しく思いながら空と音を立てて揺れる木々を見ていた。
――車のライトが通り過ぎて、消えた。
「先輩、ただいまです」
「あ、おかえり」
冷たい缶コーヒーを差し出される。受け取って頬に当てると気持ちいい。
ひと息ついて私も気持ちがほぐれたのか、話す余裕が出てきたみたいで。話しかけられるままに彼としゃべっていた。どうでもいい話。今日の飲み代が万馬券だったこととか。
楽しい、と思うし嫌じゃなかった。
私がずるい言い方で振ったりしたこともあったのに、どうしてこの子はこんなに気安く話しかけてきてくれるんだろうと少しだけ思った。
ちょっとだけ意識している心の一部が、変な反応しそうなのを抑えつける。
そんなわけないでしょ。
バカなこと考えてるんじゃないの。
あんな目にまた合いたいの?
――ううん、もう二度と嫌。
でも。……なんでもない。なんでもないんだ。淋しいだなんて思ってなんかいないんだ。
なんだかふたりとも沈黙が怖いとでも思ってるみたいに、どうでもいい話を続けていた。
話が途切れたら、なにか嵐が吹き荒れてしまうんじゃないかとでもいうかのように。
彼女が何本目かのタバコをゴミ箱に捨てる。僕が何度試してもダメだったのに、この風の強い中一発で火が点くのはどうしてだろう……。
やっと笑ってくれたりしたことが嬉しかったけど、会話が途切れるのが怖かった。微妙な距離感があるって意識し始めたらもうダメで。僕はもっと近くに行きたいと思っていた。
あの風になびいている髪もまとめて抱きしめて。
この激しい夜にまかせて君の手を握り締めて。
そんなことばかり思い浮かんで、鼓動が早くなるのを止められない。ああ、ダメだダメだ、下手に動いたらもう本当に側にいられなくなるかもしれないのに!
「先輩、風が強くて聞き取りづらいんで、もうちょっと近くに座ってもいいですか?」
「え、あ、うん」
思い切って言ったひと言は、すんなり受け入れられてしまった。
「なにか嫌だったら言ってください」
そう言って僕は――今まで正面のベンチに座って向かい合わせだったんだけど、彼女の隣に座ったんだ。
ほんの少しだけれど彼女の温度を感じるような気がする。僕は変態かもしれない……。
「こんな風に話すのって久しぶりだね」
どこか遠くを見て彼女が言う。すました顔で、タバコをふかして。
そうかもしれませんね、とその視線の先を追うけれど、ただ雲の切れ間から星が見えるだけだった。
ものすごい速さで、雲が藍色の空を流れていく。
先輩が、タバコの箱を取り出そうとして、落とした。それを拾おうとした僕と、先輩の手が触れてしまった。
その前後になにを話していたかなんて、吹っ飛んでいった!
触れて思わず握り締めてしまって。
まだ中に数本入ったままの箱はそのまま転がっていってしまうけれど、そんなことどうでもよかった。
「ご、ごめんなさいっ」
「いやいいよ、大丈夫……」
「先輩って、冷え性ですか?」
彼の口をついて出た間抜けな言葉に笑ってしまう。落とした瞬間たまたま握られてしまった私の手は、確かに冷たいに違いない。そうだよ、冷え性だよ。
そんなことはどうでもいい、どうして私はすぐに離してと言わなかったの? なんでちょっと嬉しいと、本気で思ってしまったの? これも全部お酒のせいにしてしまえば楽になるって、わかってる。
先輩は嫌がらなかった。だから握ってしまった手は、離さなかった。酔いにまかせているんだって自分に言い聞かせて、さらさらしてひんやりした考えてたよりもずっと小さな手を……。
あ、もうダメだ。抑えきれないかもしれない。でも、口をついて出た言葉は間抜けなひと言で。
「冷え性の手って嫌い?」
「い、いえそんなことないです、それより寒くないですかっ」
「えっ、あっ」
お酒って怖いかもしれない。
……そっと、抱き寄せられた。言葉とは裏腹にすごく優しくて驚いた。そしてその胸は思っていたよりもずっと広くて、大きくてどうしよう……って私、は。
これがもしもあのことが起きていない別の世界の出来事だったらすごく素直に幸せそうにできたと思うし、そうだったらいいなって思う。でも、本当の私はため息ばかりついている気がする。
「こんなことして、君が寒いんじゃない、の?」
「大丈夫……です。僕はそれよりも」
「それよりも?」
「ごめんなさい、もう抑え切れそうにないよ」
急に彼が、タメ口になった。
ざあっと、風が吹いた。
もうこの猛る胸が押さえきれない。ずっと、色々、我慢していたから。
「本当に嫌だったら突き飛ばして、ビンタでもして」
「ちょ、いきなりそんなこと言われても」
もう全部お酒のせいにしてしまえ。
「先輩、まだ僕はあなたが好きです」
――ほんの少しだけもがいていた彼女の動きが、止まった。
「いつもつまらなさそうにタバコふかしてるのも」
それがチャンスだとばかり今まで言いたかったことを言ってしまう。言ってしまえ。
「すました顔でいるのも」
「……」
「全部、強がりでしょ?」
「そんなこと、自分でも解ってるよ!」
僕の体に包まれたままで、君が言う。もうもがいたりしていなくて、目を真っ直ぐに見ていた。
「先輩に色々あったのは、少しなら知ってる」
「あ……なんで」
「もちろん全部は知らないけど!」
知らないけど、そのことが原因で色んなこと誤魔化して無駄口叩いてタバコばっかり吸いながら猫背でため息ついて、すました顔して。そんな風にひとりでも平気だみたいなスタイルで毎日過ごして……。
誰にも、心の中を見えそうで見えないような、そんな強がりばかり気取っちゃって。
「僕にとっては申し訳ないんだけど先輩のことが好きだってことには、些細な事情なんだよ」
怒られても仕方ないって思った。これって色々あったのもどうでもいいって言ってるも同じだから。
でも、そうやってあのころを些細な事情だなんて言われても私はなぜか怒らなかった。
ぐるぐる、ぐるぐる、あの時のことが頭の中を嵐のように駆け巡っていく。真っ白になったあの時のあいつの顔、もうすっかり忘れていたはずの修羅場。
それだけじゃない、色々、たくさん。
あのこと以前の思い出やあのあとに告白された時のこと。
何度ごめんなさいを言っただろう? もちろんこの子にも言ったんだ。
「些細な、事情か……」
「先輩にとっては、すごくつらかったのはわかってる!」
「う、うん……」
「でも、そんなこと関係なく、僕は先輩のことがまだ好きなんだ」
「……」
「まだ、ひとりで生きてけるだなんて、まだ彼氏なんていらないとか思ってる?」
と、そこでタメ口になっていることに気づいたのかあ、と、彼は声を上げた。
「す、すいませんなんか色々、うん、色々」
「どうしてここまできてそうなるかなあ」
笑ってしまった。
いきなりこんな風に抱きしめてきた癖に、抜けている。
私の心の奥の奥まで探ろうとしているのに。
――ああ、そこまでしてきた人って、あれからいたっけ?
「いいよ、もう。全部お酒の勢いだとしても、なんにしても」
もう、大丈夫な気がする。ここまでされちゃったら嵐ですべて嫌な記憶も吹き飛んでいったよ。
「だから……」
その時ひと際強い風が吹いたから、最後の会話は誰にも聞こえない。
さらに深くふたつの影が重なって。
からん、と空になったコーヒー缶が、転がった。
『Cyclone』了
参考・感謝
『初音ミク・レン』Cyclone(ver2)『オリジナル』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2309241
作詞・作曲・編曲:黒うさP
唄:初音ミク&鏡音レン
ただ、タバコをふかしてすました顔で。
いつもより強い風が、木々を揺らしている音が騒がしいここにまで響いてくるけれど、そんなこと誰も気にしていなかった。彼女はどこか遠くを見ているようでもあり、どこも見ていないようだった。
僕の好きな年上の君は、いつもとどこか違って見えた。なにかあったのかなと思っても、そんなこと素直に話してくれるだなんて思っていない。
「……あれ、飲んでないの?」
「いやいやいや、ちゃんと飲みますって。せっかく先輩がタダ酒飲ませてくれるってんだから」
サークルの先輩がなにやらとんでもない額の万馬券を当てたとかで、僕ら後輩を含めた十人ちょっとはサークル活動もそこそこに大学の近くにある飲み屋になだれ込んでいた。僕は競馬とかわからないけど、今日は先輩に感謝しよう。
なので、しっかり酒を飲んでもいるしちゃんと食べてもいる。それでも声をかけられた時だけ楽しそうにする君が気になって仕方ないんだ。
僕が彼女のことを好きだってことは、とうの昔にばれてもいるし振られているんだってことも知られてる。本当にあの時は死んでしまいたくなるくらい苦しくて、サークル――いや、学校自体をやめてしまおうだなんて思ったこともあったけど。それでもなんとか時間が解決してくれた。
告白したのはもう半年も前のことだ。
あの時、僕は思い切りはぐらかされた。
彼氏だなんて今はいらないからごめんね、だなんて。
ほしくなるまでちょっと待ってて、だなんて。
そんなずるい言葉で。
年下だからやっぱりダメだったのかなあとか思ったけど……違ったって、後から知った。
君はただ誰かが自分からまた去っていくことが怖いんだろう?
聞いたんだ。
僕が入学する前、一年生の時に大失恋したんだって。あれから三年の今に至るまで一度も彼氏を作ったことがないって。
――浮気されたんだって。
――もうこれからひとりで生きてく! って言ってたよ。
振られた後、なんとか学校に行けるようになってから、何人かのサークルの女の子からそんな話を聞いた。
でも知ってるんだ。あの子のそれは全部強がりだって。
……年上をあの子、だなんて思ってたらおかしいのかもね。でも、そう思わせるようななにかが僕にとってはあるんだ。この消えない気持ちだって引きずっているだけなのかもしれない。男はほら、女よりも引きずるものだって今日思い切り出来上がっている万馬券の先輩に言われたし。あの時は本当にお世話になりました、先輩。
いやいやそれはどうでもいい。ずっとあんな顔していることが目について離れない。僕は今すぐにでも君の隣に行って、少しでもその硬い表情を和らげてあげたいと思う。さっきから席を移動しようとしているんだけど、上手くいかない自分が嫌になるよ。
お酒で火照った頬に、強い風が心地いい。
私はしっかり酔っていることは自覚していたけど、心のどこかはずっと冷めたままだった。せっかくおごってもらえるっていうのに、なぜかあれからずっと大勢で騒いだりしていてもどこかが冷めてしまっている。
もう二年も経ったのに傷はなかなか消えないみたいだ。きっかけはうん、しっかり自覚しているよ。別の学校の人と付き合いだして、忙しくてなかなか会えない日が付き合って三ヶ月くらいから始まって。思っていたよりもレポートや課題が多いことを舐めていた私も悪いんだけど。でも、だからと言って浮気していいだなんて言った覚えはひと言もなかった。
とてもわかりやすい失恋。たまたまぽっかり時間が空いて、驚かせちゃおうと直接自宅に行ったら……ああいやだ、思い出したくないけど本当によくある話。つまらない二時間ドラマにでもありそうな展開。最後に覚えているのは、その場で手に持ってたお土産のケーキの箱を投げつけたせいで真っ白になったあの人の顔。よくあんな上手いことぶつかったなあなんて思ったりする。テレビのパイ投げみたいなバカな顔。
あれからどんな相手でも断ってきた。すっかりトラウマになってたんだと思う。色んな人が励ましてくれたし、色んな人が気を紛らわせてくれたし、自分でも立ち直ったつもりだったけど、それでも。当然よね、ドアを開けたらふたりともこれからいたすところでしたーなんてもの見てしまったら……。あの日からそういう、映画のえっちなシーンですら気持ち悪くなってしまってたくらいだもの。さすがに今は少しマシになったけど。
だから、半年前に同じサークルの後輩に告白された時だってすげなくしてしまった。
うん、仲はよかったと思うし、可愛がってたと自分でも思う。
あの子が恋愛対象にならない……ってわけじゃない。
むしろ、嬉しかった。
だからとてもずるいことを言って笑って後ろを向いて小走りに。用事があるからとか嘘ついて。
すごーく傷つけたってわかっててもなにもできなかった。応えてあげたくても怖くて。
意識だけしていた。目では追わずに気持ちだけで追っていたようなもの。
今日の飲み会にももちろんあの子はきていた。でも、全然話した覚えがないや。私はぼーっとタバコをふかしながら軽く飲んだり食べたりしていただけで。こういう風の強い日はあのことを思い出すなだなんて感傷に浸って。そう、あの日も、とても風が強かった。まるですべてをなぎ倒していってしまうくらいに。あの時なぎ倒されたのは私の心だったけど。
「先輩、次の店行きます? まだおごってくれるみたいなんですけどっ」
「あー……私はいいや、ちょっと酔っ払ってるみたいだし」
「じゃ、帰り組と一緒ですね。夜ですから気をつけてくださいよ、タクシー呼びます?」
顔を真っ赤にしている女の子がじゃれつくように言ってくる。
こういう接し方をしてくる後輩は多い。どうも姐御肌というか、そういう風に見られてるのかもしれない。サークル内でタバコを吸う女が、私ともうひとりくらいしかいないせいかもしれない。そのもうひとりはもちろん友達でよく遊んだりもするけど、サークル活動に熱心ではないからあまり顔を出さなかったし。
「ううん。いい風だもの、少し当たって酔い覚ましてから自分で拾うから大丈夫」
「他に帰る人いるー?」
私の声を聞いているのかいないのか、そんなかんじ。
酒の席なんてこんなものだからいいか。
本当に、強い風。酔いを覚ますにはもってこい。
終電はまだあるし(だからなんでタクシー呼ぶのかなと思ったんだけど、なにしろあの子もすっかり酔ってたからいいかとスルーした)駅までゆっくり歩いて行こう。
他に帰る人、いるかなと思ってたけど……あ。
――気まずい空気にならないといい、な。
本当は僕もみんなと一緒に行こうかなと思ってたんだ。
でもあの子が帰るのなら、意味なんてないじゃないか。女々しいかもしれないけど思いっきりまだ僕は彼女のことが好きだし、ストーカーだとかそんなような物騒なことにならないような自然な形で側にいたいなと思うし。だからこそ、サークルを辞めなかったんだ。
「先輩、駅まで歩くんですか?」
次の店に行くというみんなの声を後ろに聞きながら、僕は前を歩き出したあの子に声をかける。さすがに名前や苗字で呼ぶようなことはない。あの子、だなんて親しげに考えたりするのは心の中でだけ。いつか、口に出せたらいいなだなんていまだに思っているんだけど。
「……うん。ちょっとどこか寄り道するかもしれないけど」
「ご一緒したら、迷惑ですか?」
声にしてからやばっ、と思った。まだ好きなことなんてきっと君は知らないよね。男がここまで引きずるってこともバカにされちゃうかもしれない。
でもそれは杞憂だったようで。
「別に、いいよ。もしかしたらどこかの公園かもしれないけど」
「その時はコーヒーおごりますよ、缶でよければ」
ずっとつまらなさそうにしていた君が、ほんの少しだけ笑ったような気がした。
なにも言わずに歩き出す。本当に寄り道するのかもしれない。駅へ向かう大通りを横道にそれた。僕はこの辺りにそんなに詳しくないから、ついていくだけだ。
前を歩く彼女が、長い髪をかき上げた時にちらりと見えたうなじに少し、どきっとした。ほんの少しだけ顔が赤い気がする。酒に強いという話は聞いたことないし、それなりに飲んでいたから酔っているのかもしれない。もちろん僕もそれなりに酔いを感じているから、きっと顔は赤いだろう。
そのままどんどん駅から離れていって、小さな児童公園に着いた。子どもが遊ぶために作られたんだろう小さな丘の向こうにコンビニの淡い明かりがかすかに見えた。
「先輩はこの辺り、よく知ってるんですか?」
「まあ、地元だからね。ええっと……」
「進学のためにこっちでひとり暮らし、始めました。色々と毎日大変です」
苦笑しながら言う。実際問題大変だったし。
「あ、タバコ吸うっけ? ライター落としちゃった。あっちで買ってくるのも面倒だし持ってない?」
……僕はまだ、タバコを吸ったことがない。
でも、なぜかライターはいつもポケットに入れていた。
なぜかって?
「持ってます。お点けしますよ」
こうやって、先輩のタバコに火をつける日が来るかもだなんて思ってたからだ。
振られてからも持ち歩いていたし、バカだし情けないなあってわかってるよ……。
「んー……」
強い風のせいで、なかなかつかない。僕の点け方が下手なのかもしれないけど。
ちょっと貸してと言われるままに手渡すと、今度は一発で火が点いた。
……うわあ、僕、格好悪。
それを誤魔化すように、缶コーヒー買ってきますねと僕はその場を離れた。
気まずいかんじではないけど、なんだかやりにくいな……と思っていた。嫌なかんじではないんだけど、私は罪悪感が少しあるみたいで。
なので、あんまり話もしないでここまで歩いてきた。思っていたよりも酔っていたみたいで、まだ顔が熱い。ここから駅までは五分十分程度なので、ちゃんと時計を見ていれば終電云々は関係ないし。歩いても帰ることはできるけど。どうせ私はひと駅先なだけだし。
火の点いたタバコをふかしながら空を見上げる。本当に風の強い夜。雲の切れ間にちらちら見える夜空を星が流れていく。一緒に帰ることになり、なしくずしにここまで一緒に来ているあの子は今、コンビニに買い物しに行っている。そういえばあの子タバコ吸う子だったっけ?
だから、私はひとりだ。ひとりでただ、風になびく髪を少し鬱陶しく思いながら空と音を立てて揺れる木々を見ていた。
――車のライトが通り過ぎて、消えた。
「先輩、ただいまです」
「あ、おかえり」
冷たい缶コーヒーを差し出される。受け取って頬に当てると気持ちいい。
ひと息ついて私も気持ちがほぐれたのか、話す余裕が出てきたみたいで。話しかけられるままに彼としゃべっていた。どうでもいい話。今日の飲み代が万馬券だったこととか。
楽しい、と思うし嫌じゃなかった。
私がずるい言い方で振ったりしたこともあったのに、どうしてこの子はこんなに気安く話しかけてきてくれるんだろうと少しだけ思った。
ちょっとだけ意識している心の一部が、変な反応しそうなのを抑えつける。
そんなわけないでしょ。
バカなこと考えてるんじゃないの。
あんな目にまた合いたいの?
――ううん、もう二度と嫌。
でも。……なんでもない。なんでもないんだ。淋しいだなんて思ってなんかいないんだ。
なんだかふたりとも沈黙が怖いとでも思ってるみたいに、どうでもいい話を続けていた。
話が途切れたら、なにか嵐が吹き荒れてしまうんじゃないかとでもいうかのように。
彼女が何本目かのタバコをゴミ箱に捨てる。僕が何度試してもダメだったのに、この風の強い中一発で火が点くのはどうしてだろう……。
やっと笑ってくれたりしたことが嬉しかったけど、会話が途切れるのが怖かった。微妙な距離感があるって意識し始めたらもうダメで。僕はもっと近くに行きたいと思っていた。
あの風になびいている髪もまとめて抱きしめて。
この激しい夜にまかせて君の手を握り締めて。
そんなことばかり思い浮かんで、鼓動が早くなるのを止められない。ああ、ダメだダメだ、下手に動いたらもう本当に側にいられなくなるかもしれないのに!
「先輩、風が強くて聞き取りづらいんで、もうちょっと近くに座ってもいいですか?」
「え、あ、うん」
思い切って言ったひと言は、すんなり受け入れられてしまった。
「なにか嫌だったら言ってください」
そう言って僕は――今まで正面のベンチに座って向かい合わせだったんだけど、彼女の隣に座ったんだ。
ほんの少しだけれど彼女の温度を感じるような気がする。僕は変態かもしれない……。
「こんな風に話すのって久しぶりだね」
どこか遠くを見て彼女が言う。すました顔で、タバコをふかして。
そうかもしれませんね、とその視線の先を追うけれど、ただ雲の切れ間から星が見えるだけだった。
ものすごい速さで、雲が藍色の空を流れていく。
先輩が、タバコの箱を取り出そうとして、落とした。それを拾おうとした僕と、先輩の手が触れてしまった。
その前後になにを話していたかなんて、吹っ飛んでいった!
触れて思わず握り締めてしまって。
まだ中に数本入ったままの箱はそのまま転がっていってしまうけれど、そんなことどうでもよかった。
「ご、ごめんなさいっ」
「いやいいよ、大丈夫……」
「先輩って、冷え性ですか?」
彼の口をついて出た間抜けな言葉に笑ってしまう。落とした瞬間たまたま握られてしまった私の手は、確かに冷たいに違いない。そうだよ、冷え性だよ。
そんなことはどうでもいい、どうして私はすぐに離してと言わなかったの? なんでちょっと嬉しいと、本気で思ってしまったの? これも全部お酒のせいにしてしまえば楽になるって、わかってる。
先輩は嫌がらなかった。だから握ってしまった手は、離さなかった。酔いにまかせているんだって自分に言い聞かせて、さらさらしてひんやりした考えてたよりもずっと小さな手を……。
あ、もうダメだ。抑えきれないかもしれない。でも、口をついて出た言葉は間抜けなひと言で。
「冷え性の手って嫌い?」
「い、いえそんなことないです、それより寒くないですかっ」
「えっ、あっ」
お酒って怖いかもしれない。
……そっと、抱き寄せられた。言葉とは裏腹にすごく優しくて驚いた。そしてその胸は思っていたよりもずっと広くて、大きくてどうしよう……って私、は。
これがもしもあのことが起きていない別の世界の出来事だったらすごく素直に幸せそうにできたと思うし、そうだったらいいなって思う。でも、本当の私はため息ばかりついている気がする。
「こんなことして、君が寒いんじゃない、の?」
「大丈夫……です。僕はそれよりも」
「それよりも?」
「ごめんなさい、もう抑え切れそうにないよ」
急に彼が、タメ口になった。
ざあっと、風が吹いた。
もうこの猛る胸が押さえきれない。ずっと、色々、我慢していたから。
「本当に嫌だったら突き飛ばして、ビンタでもして」
「ちょ、いきなりそんなこと言われても」
もう全部お酒のせいにしてしまえ。
「先輩、まだ僕はあなたが好きです」
――ほんの少しだけもがいていた彼女の動きが、止まった。
「いつもつまらなさそうにタバコふかしてるのも」
それがチャンスだとばかり今まで言いたかったことを言ってしまう。言ってしまえ。
「すました顔でいるのも」
「……」
「全部、強がりでしょ?」
「そんなこと、自分でも解ってるよ!」
僕の体に包まれたままで、君が言う。もうもがいたりしていなくて、目を真っ直ぐに見ていた。
「先輩に色々あったのは、少しなら知ってる」
「あ……なんで」
「もちろん全部は知らないけど!」
知らないけど、そのことが原因で色んなこと誤魔化して無駄口叩いてタバコばっかり吸いながら猫背でため息ついて、すました顔して。そんな風にひとりでも平気だみたいなスタイルで毎日過ごして……。
誰にも、心の中を見えそうで見えないような、そんな強がりばかり気取っちゃって。
「僕にとっては申し訳ないんだけど先輩のことが好きだってことには、些細な事情なんだよ」
怒られても仕方ないって思った。これって色々あったのもどうでもいいって言ってるも同じだから。
でも、そうやってあのころを些細な事情だなんて言われても私はなぜか怒らなかった。
ぐるぐる、ぐるぐる、あの時のことが頭の中を嵐のように駆け巡っていく。真っ白になったあの時のあいつの顔、もうすっかり忘れていたはずの修羅場。
それだけじゃない、色々、たくさん。
あのこと以前の思い出やあのあとに告白された時のこと。
何度ごめんなさいを言っただろう? もちろんこの子にも言ったんだ。
「些細な、事情か……」
「先輩にとっては、すごくつらかったのはわかってる!」
「う、うん……」
「でも、そんなこと関係なく、僕は先輩のことがまだ好きなんだ」
「……」
「まだ、ひとりで生きてけるだなんて、まだ彼氏なんていらないとか思ってる?」
と、そこでタメ口になっていることに気づいたのかあ、と、彼は声を上げた。
「す、すいませんなんか色々、うん、色々」
「どうしてここまできてそうなるかなあ」
笑ってしまった。
いきなりこんな風に抱きしめてきた癖に、抜けている。
私の心の奥の奥まで探ろうとしているのに。
――ああ、そこまでしてきた人って、あれからいたっけ?
「いいよ、もう。全部お酒の勢いだとしても、なんにしても」
もう、大丈夫な気がする。ここまでされちゃったら嵐ですべて嫌な記憶も吹き飛んでいったよ。
「だから……」
その時ひと際強い風が吹いたから、最後の会話は誰にも聞こえない。
さらに深くふたつの影が重なって。
からん、と空になったコーヒー缶が、転がった。
『Cyclone』了
参考・感謝
『初音ミク・レン』Cyclone(ver2)『オリジナル』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2309241
作詞・作曲・編曲:黒うさP
唄:初音ミク&鏡音レン
2010年03月07日 21:08
たったひとつだけ ほしいものがあるのです
それだけで十分だから もう他になにも求めないから
せめて差し出したものの代わりに
未来のふたりに祝福がありますように ただ願う
季節はもうすぐ 春
雪解けは少しずつ始まって
過去を振り返ってもなにも得られない わかっている
形あるものはいつか壊れる 心の中に記憶すればいいはず
それでも どうしてこんなにあの傷跡が痛いの
私があなたに願うのは たったひとつだけなのです
それだけで幸せだから もう他になにも要らないから
せめて切なさを拭う代わりに
未来はわからない 一緒に幸せになりたいけれど
涙雨 冷たい雨 なにもかも消していく
たったひとつを願って 望む
愚かなわたしは とても滑稽ね
もう少ししたら きっと空も晴れる
そしてまた泣くのでしょうか
涙雨 優しい雨 なにもかも消していく
たったひとつを願い 請う
愚かなわたしを 笑ってください
そして
もしもその時あなたが共に在るなら
馬鹿だなと頭を撫でてください
涙雨 了
それだけで十分だから もう他になにも求めないから
せめて差し出したものの代わりに
未来のふたりに祝福がありますように ただ願う
季節はもうすぐ 春
雪解けは少しずつ始まって
過去を振り返ってもなにも得られない わかっている
形あるものはいつか壊れる 心の中に記憶すればいいはず
それでも どうしてこんなにあの傷跡が痛いの
私があなたに願うのは たったひとつだけなのです
それだけで幸せだから もう他になにも要らないから
せめて切なさを拭う代わりに
未来はわからない 一緒に幸せになりたいけれど
涙雨 冷たい雨 なにもかも消していく
たったひとつを願って 望む
愚かなわたしは とても滑稽ね
もう少ししたら きっと空も晴れる
そしてまた泣くのでしょうか
涙雨 優しい雨 なにもかも消していく
たったひとつを願い 請う
愚かなわたしを 笑ってください
そして
もしもその時あなたが共に在るなら
馬鹿だなと頭を撫でてください
涙雨 了
2010年03月07日 20:57
もう彼女は僕のものじゃない 恋人じゃない
立場としてはモトカノ なのにどうして無邪気なの
簡単に友達と言っているけど 僕も笑ってるけど
そんなすぐに割り切れるものじゃないのにな
その笑顔に癒されるのは変わらないのに
僕らはモトカノ モトカレ
どこでボタンを掛け間違えたのかな
もし正解を選び続けてたら 立場は変わらなかったかな
もう僕は彼女のものじゃない 恋人じゃない
立場としてはモトカレ なのにどうして気にしないの
僕はまだ本音と建前使い分け 彼女に合わせて微笑むけど
時折色んな思い出浮かんで ちくり胸が痛いんだ
簡単に触れてくるのも変わらないのに
僕らはモトカノ モトカレ
切なくてもモトカノ モトカレ
モトカノモトカレ 了
立場としてはモトカノ なのにどうして無邪気なの
簡単に友達と言っているけど 僕も笑ってるけど
そんなすぐに割り切れるものじゃないのにな
その笑顔に癒されるのは変わらないのに
僕らはモトカノ モトカレ
どこでボタンを掛け間違えたのかな
もし正解を選び続けてたら 立場は変わらなかったかな
もう僕は彼女のものじゃない 恋人じゃない
立場としてはモトカレ なのにどうして気にしないの
僕はまだ本音と建前使い分け 彼女に合わせて微笑むけど
時折色んな思い出浮かんで ちくり胸が痛いんだ
簡単に触れてくるのも変わらないのに
僕らはモトカノ モトカレ
切なくてもモトカノ モトカレ
モトカノモトカレ 了










